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第4章 はり理論

4.1 概説

 ベルヌーイ・オイラーの平面保持の仮定に基づいた古典曲げ理論(初等曲げ理論)は、
 はりは変形の前後で、断面形状が変化しないという考えです。
 つまり変形前に、はりの中立軸に直交していた任意断面は、
 変形後も中立軸に直交するというもので、
 はりのせん断変形は考慮しません。

 実際、横荷重を受けたはりは、
 せん断応力が生じているので、せん断変形が伴います。
 通常のはりでは、曲げ変形がせん断変形に比べ卓越しているので、
 曲げ変形のみを考えることで十分です。

 しかし、はりの高さhとスパンlの比h/lが増大するにつれ、
 断面がゆがみ、せん断変形の影響が無視することができなくなります。
 つまり、断面寸法に比べて長さが短いはりや、固定端のように断面拘束の強い部分では、
 せん断変形の影響が大きくなります。

4.2 弾性構造力学の仮定

 弾性構造力学において取り扱う範囲は、
 特に断らない限り次の事項を仮定しています。

  1. 外力は静的に作用します。
  2. 構造材料は、均質、等方性であり、フックの法則にしたがう。
  3. 構造物の変形は、その寸法に比べて微小であり、微小変形理論にしたがう。
<静的作用>
 弾性体に荷重を作用させる際に、振動、衝撃を与えないようにするため、
 荷重を0から徐々に加え始め、最終値まで増大させる載荷方法を静的作用といいます。
 当然、変位も最初の0から直線的に増加して最終値にいたります。
<均質、等方性>
 材料のどの場所でも応力−ひずみ関係が同一である性質を均質といい、
 このような性質を持った材料は均質体と呼ぶ。
 場所毎に応力−ひずみ関係が異なる材料は非均質体という。

 また、荷重に対する変形が方向に依存しない。
 つまり、応力−ひずみ関係がどの方向であっても等しい性質を等方性といい、
 このような性質を持った材料を等方性体と呼ぶ。

 変形が方向によって異なる性質を異方性といい、
 このような性質を持った材料は異方性体といいます。
<フックの法則>
 ロバート‐フック(Robert Hooke,イギリス,1635〜1703)は、
 多くの材料実験から材料に加わる力の大きさと、
 それによる材料の変形の大きさとの関係を明確にした。

 物体が弾性の範囲を超えない場合、応力とひずみの比は等しい。
 応力とひずみの間には材料によって固有の関係があります。
 引張や圧縮のときの応力とひずみの比をヤング率、
 せん断応力とせん断ひずみの比をせん断弾性係数という。
<微小変形理論>
 構造物は外力を受けて変形しますが、
 その変形は構造物全体の寸法に比較すると非常に微小なものです。
 外力の作用した状態でつり合いを考える場合、
 外力の作用する以前の寸法をそのまま使用しても差し支えない。
 この考えを微小変形理論という。

 変形が微小であるために、応力のつり合い及び応力と外力のつり合いが、
 変形前の骨組みの形状、状態で成立するという仮定です。
 つり合い式を考えるときに、構造物内に微小な立方体の相対する各面は平行で、
 かつ同じ面積であると見なす。
 つまり形が変わってしまうということは考えない。
 このため、変形前の骨組みの形状、状態でつり合い式を適用します。

4.3 解析の基本原理

 構造物の応力と変形を算定するためには、

 @力のつり合い条件
 A弾性条件(応力と変形との関係)
 B変形の適合条件

 の3個の条件を式に表し、
 これらの条件に適合する連立一次方程式を解く必要があります。

 @は、静力学的つり合い条件であり、
 平面構造では、水平力の和が0(ΣH=0)、
 鉛直力の和が0(ΣV=0)
 及びモーメントの和が0(ΣM=0)を指す。
 静定構造物はこのつり合い条件のみを用いて解くことができます。

 Aは、弾性体において、フックの法則から導かれるもので、
 応力とひずみが線形関係で与えられます。

 Bの変形の適合条件とは、
 例えば、端支点、中間支点のたわみが0になることや、
 たわみ角の連続性などを意味しています。

 ここで、たわみ、たわみ角とは、
 変形前のはりの中心軸から、変形後の、はりの中心軸の変位をたわみと呼び、
 たわみ曲線の接線と変形前のはりの中心軸とのなす角をたわみ角という。

4.4 構造物の種類

4.4.1 構造物の分類

構造物を分類すると次のように表されます。

4.4.2 構造物の安定、不安定と静定、不静定

@ 外的安定、外的不安定

 外的とは、構造物全体の位置の状況(移動、回転の有無)を意味し、
 内的とは、構造部材の形状の状況(構造系としての抵抗の有無)を意味するものです。
 構造物が外力を受けて変形はするが、移動も回転もしない状態を外的安定という。
 つまり、力の伝達が行われ、反力、部材力が確定できます。

 構造物が移動や、回転するような状態を外的不安定といい、
 力のつり合い条件が成立しない。
 このように外的安定、外的不安定は、支持条件による安定、不安定を意味します。

A 外的静定、外的不静定

 力のつり合い条件のみで構造物の反力を求めることができるとき、
 その構造物は外的静定という。

 力のつり合い条件の他に、
 構造物の変形条件を考慮しなければ、
 反力を求めることができない構造物は、外的不静定です。

B 内的静定、内的不静定

 トラス構造など、部材の断面力が、
 つり合い条件のみで決定できる構造を内的静定という。

 つり合い条件のみで決定できない構造を内的不静定という。
 内的とは、構造物の形状の安定を意味します。

C 内的安定、内的不安定

 トラス構造などでは、構造体を構成する部材数が十分で、
 外力に対して抵抗できる構造を内的安定という。

 外的に安定であっても構造体を構成する部材数が不十分であると、
 構造系が不安定となる。
 これを内的不安定という。
 内的不安定な構造は外力が作用すると、構造系として抵抗できず崩壊します。

D 全静定、全不静定

 ラーメンやアーチのような構造では、
 内的静定、不静定ではなく、
 内的静定と外的静定を合わせた全静定条件が重要です。

4.4.3 静定構造物

 静力学の平衡方程式(つり合い条件式ΣH=0、ΣV=0、ΣM=0)によって
 支点反力や断面力の大きさを決定できる構造物です。

 H:荷重及び反力の水平成分
 V:荷重及び反力の鉛直成分
 M:荷重及び反力の任意点まわりのモーメント

安定を保つため、位置が不変かつ形状が不変の条件を満たすために最小限の拘束から成り立つ構造物です。

4.4.4 不静定構造物

 力のつり合い条件式のみでは、
 支点反力や断面力の大きさを決定できない構造物です。

 構造解析には、さらに不静定次数に相当する数の変形の適合条件式も必要となります。
 安定を保つため、最小限必要な拘束より多くの拘束を受けている構造物である。
 そのため、静定構造物に比べて力学的に安全性が高い。
 n次不静定構造物は、静定構造物に対し、さらにn個の拘束を与えた構造物です。

4.4.5 構造物の不静定性

 不静定次数は、構造物の安定を保つため、
 最小限必要な拘束よりどれだけ多くの拘束が与えられているかを表す数です。
 したがって、静定構造物の不静定次数は0であり、
 静定構造物から1つでも拘束を取り去ると不安定な構造物になります。

 一般的に構造物の不静定次数は、
 外的及び内的不静定次数の総和です。

 不静定構造物の解析では、
 不静定次数に相当する数の力を未知量として決定すれば、
 他の力(反力や断面力)は、力のつり合い条件式から求めることができます。
 未知量として選定した力を不静定力という。
 不静定構造物から過剰な反力が取り除かれた後に残る構造物は、
 静定基本系と呼ばれ、取り除かれた反力を不静定量といいます。

<不静定次数の判別式>

n=m+r+p−2k

 n:不静定次数

  n<0  不安定(構造物として機能しない)

  n=0  静定構造物

  n>0  不静定構造物(nの値が不静定次数となる)

   m:部材数

   r:反力数(可動支点=1 回転支点=2 固定支点=3)

   p:剛節接合材数(剛節に接合している部材の数)

剛節接合材数p とは、ある部材に着目したときに、その部材に剛に接合されている部材の数を表しています。それぞれの節点に接合している部材の数字の最大値がその節点の剛節接合材数

 k:節点数(支点、自由端も1つの節点と数えます)

【例題4−1】

 次の構造物は、静定構造物か不静定構造物か答えよ。不静定構造物の場合は、不静定次数も答えよ。(静定・不静定)

【解答4−1】

4.5 静定構造物の解法

4.5.1 はりの種類

はりを構造によって分けると次のようなものがあります。

(1)単純ばり
   1つのはりが両端で支えられ、その一端が回転支点であり、
   他端が可動支点で支えられているもの。
(2)片持ばり
   一端が固定支点で、他端は自由な状態になっているもの。
(3)張出ばり
   支点の構造は、単純ばりと同じであるが、
   はりの一端または両端が支点から外側に張り出しているもの。
(4)固定ばり
   はりの両端が埋め込まれて固定したもの。

4.5.2 支点の種類と反力数

 土木構造物は通常地盤上に構築されます。
 その地盤と構造物の接点を支点という。
 支点には結合の仕方により、可動支点(ローラー支点)、
 回転支点(ピン支点)、
 固定支点(フィックス支点)の3種類があります。
 支点における拘束の度合いを拘束度という。

 可動支点は水平方向に移動が可能であり、
 はりがたわんだ場合に、その支点上で回転することも可能です。

 回転支点は、支点で回転だけは可能であるが、
 水平方向にも鉛直方向にも移動ができない。
 構造上は支点にピンを入れたものと考えます。

 固定支点は、はりの端を他の構造物に埋め込んだような構造になっており、
 はりの移動はもちろん、回転のできないように固定されています。

4.5.3 力のつり合い条件

 力の作用のもとで、物体が移動及び回転を起さない状態にあるとき、
 その物体はつり合い状態にあるという。
 また、そのときの力はつり合っているという。
 つまり、系全体に作用する任意方向の力及び任意の点のまわりのモーメントの和が、
 0であることを意味しています。

 水平方向の力のつり合いをΣH=0と表し、
 鉛直方向の力のつり合いをΣV=0と表す。
 そして、回転のつり合いをΣM=0と表す。Mはモーメントを表す。

 モーメントとは、回転の強さを表す量であり、力×距離の次元をもつ。
 例えば、長さ3lの板を△型の支点に図のように載せます。
 このとき板の左端に鉛直下向きの荷重P1をかけ、
 右端に鉛直下向きの荷重P2をかけます。

 支点位置△に対して、支点左側のP1は反時計回りの回転を起そうとします。
 このとき左側からのP1による回転効果はP1・lとなり、
 右端からのP2による時計回りの回転効果は、P2・2l=2P2・lとなります。
 この回転効果をモーメントという。

 P1・l=2P2・l(つまり、P1=2P2)であれば、支点位置△において、
 左側からの反時計回りの回転と、右側からの時計回りの回転がつり合って均衡し、
 板はどちらにも回転しない。これが、モーメントがつり合っている状態です。

4.5.4 支点反力及び断面力の計算

力のつり合い条件の適用手順

4.5.5 断面力の符号

T 曲げモーメント図の見方と約束

T. 曲げモーメント図の見方と約束
 はりに外力が作用すると変形が生じます。
 はり内部には変形に抵抗し、はりの形状を保持しようとする内力が発生します。

 部材に荷重が作用することによって、
 曲げモーメントが発生します。
 曲げモーメント図は、
 部材のどの位置に、どのくらいの曲げモーメントが発生しているかを図示したものです。
 曲げモーメント図を描くには約束があります。
 それは、曲げモーメント図は引張の発生する側に描くという原則です。
 曲げモーメント図を見れば、おおよその変形の状況を容易に想像することができます。

 ここで、曲げモーメントの正・負について説明しましょう。
 曲げの正・負には2つの定義があります。
 1つ目は、右回りの曲げ(時計回りの曲げ)を正、
 左回りの曲げ(反時計回り)を負とします。
 これは力のつり合いを論じる場合に用いられるものです。

 2つ目は、下側引張の曲げを正の曲げ、上側引張の曲げを負の曲げとします。
 この定義にしたがえば、正の曲げは軸線の下側に描かれ、
 負の曲げは上側に描かれます。
 これは、構造物の変形(曲げ)の状態を理解するためのものです。

 したがって、曲げモーメントを求める場合は、変形(曲げ)の状態を理解するためのものであるから、
 2つ目の定義を適用します。

 その求め方は、その断面の左または右側に作用する外力の、
 その断面に対するモーメントの代数和で求められます。
 下側引張の曲げが正ですから、断面の左側を考えた時は、時計回りを正(+)、
 反時計回りを負(−)とします。断面の右側を考えた時は、
 反時計回りが正(+)、時計回りが負(−)となります。

 下図のように左から1/3の位置にある支持点△においては、
 反時計回りの曲げモーメントP1・lと時計回りの2P2・lがつり合っているものとします。
 この場合の曲げモーメント図(M図)を示せば、
 引張側を軸線の上側に描くため、図のようになります。
 この場合は、荷重から離れるほど曲げモーメントが大きくなっている様子を表しています。

曲げモーメント

(a)符号規約:

 曲げモーメントは断面を回転させる働きを持ち、
 回転により、下側引張の曲げを正の曲げとします。
 部材内部のA点における内力系のつり合いが、
 下図のような状態になるときの曲げ応力(M)は、部材が下向きに凸になるように作用します。
 このような曲げ応力を正の符号で表す。

(b)計算規則

 1.ある断面の曲げモーメントMは、
  その断面よりも左側において、
  はりに作用する時計回りを正とする外力モーメントの代数和です。

 2.ある断面の曲げモーメントMは、
  その断面よりも右側において、
  はりに作用する反時計回りを正とする外力モーメントの代数和です。

U せん断力図の見方と約束

 せん断力とは長方形を平行四辺形に、
 正方形をひし形にゆがませるような力です。
 例えば、図のようにはりの途中に鉛直集中荷重Pの作用する単純ばりは、
 鉛直方向反力はRA、RBとなります。
 せん断力図は、鉛直方向反力と鉛直方向荷重から求めることができます。

 せん断力図を示せば、図のようになります。
 せん断力図を描く場合、まず左端A点において、
 反力の大きさと向きをそのままRAを描く。
 反力は鉛直上向きなので、はり軸線の上側に描かれます。
 そして、荷重が加わる位置まで水平に伸ばす。

 つまり、途中に荷重が加わらない限り、せん断力は変化しない。
 荷重作用点に到達すれば、鉛直下向きに、荷重の大きさ分Pだけ、せん断力を下す。
 右端B点まで、荷重も反力も存在していないので、そのまま水平に伸ばす。
 結果として、右端のせん断力図は、B点の反力を表しています。
 つまり、せん断力図の両端は、鉛直方向反力を表しています。
 せん断力の求め方は、ある断面の左または右側に作用する外力の、
 その断面の鉛直方向の分力の代数和です。
 正のせん断力を受けると、左の面は持ち上げられて右の面は下げられて、
 せん断変形します。

 したがって、断面の左側を考えた時は、
 外力が上向きの時が正(+)、下向きの時が負(−)となります。
 また、右側を考えた時は、外力が下向きの時が正(+)、上向きの時が負(−)となります。

せん断力

(a)符号規約:

 せん断力は断面の左側から求める場合、
 外力が上向きの時が正(+)、下向きの時が負(−)となります。
 また、右側を考えた時は、外力が下向きの時が正(+)、
 上向きの時が負(−)となります。

 部材内部のA点における内力系のつり合いが、
 下図のような状態になるときのせん断力(S)は、
 部材を時計回りに回転する。
 このようなせん断力を正 の符号で表す。

(b)計算規則

 1.ある断面のせん断力Sは、その断面よりも左側において、
  上向きを正とする外力の代数和です。

 2.ある断面のせん断力Sは、その断面よりも右側において、
  下向きを正とする外力の代数和です。

V 軸方向力図の見方と約束

 はりに傾斜荷重などが働く場合、
 軸方向力が生じます。
 軸方向力には圧縮力と引張力があります。
 軸方向力は、任意の断面の左側または右側にある軸方向の外力の和で、
 その符号は、引張力を+、圧縮力を−とします。

 つまり、断面の左側、右側の両方において、
 外力が遠ざかる力(引張力)を+、
 向かってくる力(圧縮力)を−とします。
 はりの各点の軸方向力を、はり全体に図示したものを軸方向力図という。
 +の軸方向力は基準線の下側に、−の軸方向力は上側に描く。

軸方向力

(a)符号規約:

 ある断面の軸方向力Nは、外力がその断面に遠ざかる力(引張力)を+、
 向かってくる力(圧縮力)を−とします。
 部材内部のA点における内力系のつり合いが、
 下図のような状態になるときの軸方向力(N)は、
 A点を引張るように作用します。
 このような軸力を「引張応力」と呼び、正 の符号で表す。

(b)計算規則

 1.ある断面の軸方向力Nは、その断面の左側において、
  外力が遠ざかる力(引張力)を正とする軸方向力の代数和です。

 2.ある断面の軸方向力Nは、その断面の右側において、
  外力が遠ざかる力(引張力)を正とする軸方向力の代数和です。


【例題4−2】

 図のような単純ばりの支点反力(RA、RB、HA)を計算しましょう。

【解答4−2】
【手順1〜4】
 可動支点と回転支点で両端を支えているはりを単純ばりと言いいます。
 図では、つり合い式を立てるために、
 回転支点にはRAとHAを仮定、
 可動支点にはRBを仮定します。
 仮定であるため、支点反力の方向は逆でも構わない。
 なお、可動支点は水平荷重を受け持つことはできないため、仮定する必要はありません。
【手順5】
 ΣV:RA+RB−3kN=0
 ΣH:HA=0  となります。
 水平荷重は作用してないため、HAは0となる。
【手順6】
 次にモーメントによるつり合いを考えます。
 B点を回転支点の中心にして、
 左側の荷重から順番に計算します。
 RAは、B点からみて、時計回りに回転するような力が働きます。
 これはB点をモーメントの中心にした時、
 プラス(+)のモーメントの力となるので、
 【RA×4m】という式になります。
 これと同じようにRAより2mの位置にあるPの荷重を考えると、
 反時計回りのモーメントが作用する力になるので、
 マイナス(−)記号がついて【−3kN×2m】となります。
 回転支点Bをモーメントの中心に考えているから、
 力のモーメントがつり合っているため0になります。
 したがって、
 ΣM=RA×4m−3kN×2m=0
 
【手順7〜9】
 まず、力のモーメントの式より
 4RA=6
 RA=1.5kN
 そして、鉛直方向の力のつり合い式
 ΣV:RA+RB−3=0 より、
 1.5+RB=3kN
 RB=1.5kN

【手順10】 曲げモーメントの計算
 任意断面の曲げモーメントは、
 その断面の左側または右側に作用する外力(支点反力含む)の
 その断面に対するモーメントの代数和です。
 まず、AC間の断面について考えると、
 この断面の左側における外力は、支点反力RA=1.5kNのみです。
 考えている断面からRAまでの距離はxですから、
 この断面のモーメントMx=RA・x=1.5xです。
 Mc=1.5×2=3kN・mとなります。

 さらに、CB間の断面について考えると、
 断面の左側は、外力としてRA(上向き)と
 P(下向き)が各々x及び(x−2)の距離に作用していますから、
 この断面のモーメントMxは、
 Mx=RA・x−P(x−2)
  =1.5x−3(x−2)
  =−1.5x+6となります。

 C点の曲げモーメントは、
 Mc=−1.5×2+6=3kN・mとなります。
 これら曲げモーメントを区間ごとにまとめて示すと、
 A 点 M=1.5×0=0
 AC間 M(a〜c)=1.5x
 C 点 M=1.5×2=3
 CB間 M(c〜b)=−1.5x+6
 B 点 Mb=−1.5×4+6=0

 また、BC間の断面について、
 その断面の右側について考えると、
 外力は、支点反力R_B=1.5kNのみであり、
 考えている断面からRBまでの距離はxであるから、
 この断面のモーメントMxは、
 Mx=RB・x=1.5xです。

 このように、外力の作用状態により、
 断面の左側、右側どちらの方向を考えるかは、
 その断面に対するモーメント計算の
 簡単な方の代数和を選べばよい。

 次に求めた曲げモーメントを図に表してみると、
 下図のようになります。
 このような図を曲げモーメント図、またはM図と呼びます。
 曲げモーメント図では、下端引張の曲げを正の曲げ、
 上端引張の曲げを負の曲げとします。
 この定義に従えば、正の曲げは軸線の下側に描き、負の曲げは上側に描きます。
 ここで、下図の単純ばりを例に、「曲げがつり合う」ということについて考えましょう。
 左端から1mの位置a-aでこのはりを仮想的に切り離してみます。
 この時、切断位置の左側の曲げモーメントは、
 支点反力RA=1.5kNによって生じる時計回りの曲げモーメントだけであり、
 1.5kN×1m=1.5kN・mとなります。

 一方、切断位置の右側の曲げモーメントは、
 右端の支点反力RB=1.5kN及び集中荷重P=3kNによって生じる曲げモーメントであり、
 支点反力RBは反時計回りに、
 RB×3m=1.5 kN×3m=4.5kN・m
 集中荷重Pは時計回りに、
 P×1m=3 kN×1m=3kN・m となります。

 これらを足し合わせると、
 反時計回りに1.5 kN・m の曲げとなります。

 この結果、左端から1mの位置での曲げは、
 左から時計回りに、1.5kN・m
 右から反時計回りに、1.5kN・mとなり、
 曲げがつり合うことが確認できます。
 これがΣM=0の意味であり、曲げがつり合うということです。

【例題4−3】

 図のような単純ばりの支点反力(RA、RB)を計算しましょう。
 [中間点にモーメント荷重Mが作用する場合]

【解答4−3】
【手順1〜4】
 図のように左端からaの位置に、
 時計回りのモーメント荷重Mが作用しています。
 左端のA点の支点反力を鉛直上向きにRAと仮定し、
 右端Bの支点反力も同様に上向きにRBと仮定します。
【手順5】RA+RB=0
【手順6】
 点A回りのモーメントのつり合い式を立てます。
 (つり合い式の場合は、時計回りを正、反時計回りを負とする。)
 B点の支点反力による曲げ:−RBl
  aの位置にあるモーメント荷重による曲げ:+M
 ΣMA=0であるので、
 −RBl+M=0
 ∴ RB=M/l (仮定したとおり鉛直上向き)
【手順7〜9】
 RA+RB=0 より、
 RA+M/l=0 ∴  RA=−M/l (仮定した方向と逆の鉛直下向き)
 ※支点反力はモーメント荷重Mの作用位置には影響を受けない。
【手順10】
 支点反力及び外力を用いて曲げモーメントを求めます。
 曲げモーメントの分布は、
 0<x<aにおいて M=−M/lx
  a<x<lにおいて M=−(M/l)x+M
 したがって、x=0ではM=0、x=lではM=0 です。

 次に、a点の極近傍の左側(a-ε)及び右側(a+ε)の位置でのMを考えます。
 ε(ε>0)を限りなく0に近づけていくと、
 a点の曲げモーメントが求まります。
 x=a−εの曲げモーメントは、
 0<x<aの場合のM=−(M/l)x 式を用い、
 εを極限まで0に近づけると、
 左側の曲げモーメントは、
 M(x)=−M/l(a−ε)
 《ε→0》 ⇒ M(x)=−(M/l)a
 また、x=aの右側では、a<x<lの場合のM=−(M/l)x+M 式を適用し、
 M(x)=−(M/l)(a+ε)+M
 《ε→0》 ⇒ M(x)=−(M/l)a+M=M(1−a/l)となります。

 よって、曲げモーメント図(M図)は、下図のようになります。
【手順11】
 支点反力(鉛直方向)及び外力を用いてせん断力を求めます。
 支点Aから任意の距離xにある断面を考え、
 その断面におけるせん断力をSxとします。
 断面の左側にある鉛直方向の外力は反力M/lのみです。
 したがって、 S(A〜B)=−M/l となります。
【手順12】
 支点反力(水平方向)及び外力を用いて軸方向力を求めます。
 軸方向(水平方向)に働く力はないため、軸方向力は生じません。
 N=0

【例題4−4】

 図のような単純ばりの支点反力(RA、RB)を計算しましょう。
 [両端にモーメント荷重Mが作用する場合]

【解答4−4】
 両端にモーメント荷重が作用するはりは、
 左端あるいは、右端のみに回転の向きが異なるモーメント荷重が
 作用するときの状態を重ね合わせたものと考えられます。
 このとき、支点反力はそれぞれ相殺され、
 両端ともに0になる。
 したがって、この場合のせん断力は0となります。
 また、曲げモーメント図はA点からB点まで一定でMとなります。

 2つの外力としてのモーメント荷重Mは、
 大きさが等しく向きが反対であるため、
 外力同士でつり合っている状態です。
 したがって、支点反力が生じません。

【例題4−5】

 図のような片持ちばりの自由端Bにモーメント荷重Mが作用している場合の支点反力RAを求めよ。
 また、曲げモーメント図を描け

【解答4−5】
【手順1〜4】
 図のようにA点の支点反力を鉛直上向きにRA
 水平反力を右向きにHA
 曲げモーメントを反時計回りにMAと仮定します。
【手順5】
 ΣH=0  HA=0
 ΣV=0  RA=0
【手順6】
 A点の回りのモーメントを考えます。
 ΣM=0
 −MA+M=0  ∴M=MA
【手順7】
 支点反力 RA=0 , HA=0 ,曲げモーメントMA=M  となります。
 ここで、片持ちばりを任意の点Cで仮想的に切断し、
 その右側において、力のつり合いを考えます。
 C点の回りのモーメントは、
 −MC+M=0  ∴ MC=M
 任意のC点をどこにとっても
 MC=M で一定となります。
 また、仮想切断したCB部材の変形状態は、
 上側が引張となるので、曲げモーメントは負となります。

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