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第1章 静力学の基礎

1.1 静力学

 力とは、物体に作用して、その運動状態を変化させる原因です。
 力を考えるには、その大きさ、作用する方向及び作用する位置が必要です。
 これらを力の3要素と呼び、『力』を考えるには、必ずこの3要素を備えていなければなりません。
 平面内にある物体の運動は、「水平方向」、「鉛直方向への運動」と「回転運動」の3つの成分に
 分けることができます。
 物体に力が作用し、静止させるためには、3つの運動成分を拘束する必要があります。

 2力またはそれ以上の多くの力が作用した場合に、
 それら数力と同じ影響を与える1つの力を求めることを力の「合成」といい、
 合成された力を「合力」と呼びます。
 またこれと反対に1つの力を2つ以上の力に分けることを力の「分解」といい、
 分けられた力を「分力」と呼びます。

 力や加速度はその大きさだけでは定まらない量であり、
 その方向も同時に指定しなければなりません。
 大きさと方向を持つ量をベクトル量といいます。

 これに対して方向を指定しなくても定まる量、
 例えば、長さ、面積、体積や質量などをスカラー量といいます。

 また、部材に力が作用すると、その力に抵抗してつり合いを保つため部材内部に力が生じます。
 これを内力といい、単位面積当たりの内力を応力といいます。
 応力はベクトルでもスカラーでもなくテンソル量といいます。

1.1.1 力の基礎的法則

@ 力の移動性の法則

 物体に作用する力の作用点は、
 同一作用線上を移動しても、物体のつり合い、運動状態は変化しません。
 このことを力の移動性の法則といいます。

 物体に作用する回転力は、図(a)の方が図(b)より大きく作用する感じがします。
 図(a)のように力を作用線上に移動させた場合、運動状態は変化しませんが、
 図(b)のように平行移動した場合は元の状態に比べ、回転力に差が生じることが感覚的に分かります。

 つまり、力は作用線上を動かせますが、平行移動させると異なった運動をしてしまいます。
 力の移動性の法則は、物体の移動や、回転する効果は同じです。
 しかし、物体の作用位置により、変形は異なります。
 変形の問題を扱う場合は、元の状態で考える必要があります。

A 力の平行四辺形の法則

 物体内の任意の点に作用する2力の合力は、
 その2力を相隣り合う2辺とする平行四辺形の対角線の大きさ及び方向をもつ1力の効果に等しい。
※大きさだけでなく、方向も考えなければならない量の足し算は、単純に足すことはできません。

B 力の三角形の法則

 力の平行四辺形の半分だけを描くことによって、2力F1とF2の合力Rが求められます。

C 作用と反作用の法則

 物体Aと物体Bが力を及ぼし合うとき、
 相互に及ぼし合う力の一方を作用と呼び、他方を反作用と呼びます。
 作用と反作用は、同時に一直線上で働き、この両作用の力の大きさは等しく、方向は反対です。

1.1.2 一点に作用する2力の合成

(A)力の平行四辺形の法則

 2つの力F1とF2の合力Rは、F1とF2を2辺とする平行四辺形の対角線で表されます。
 逆に、1つの力Rはそれと同じ効果を持つ2つの分力F1とF2に分けられます。
 合力Rと同じ効果をもつ分力は無数に存在します。

1.1.3 一点に作用する多くの力の合成

(A)図解法(力の多角形、示力図)

 多くの力の合力を求めるには、多くの力のうち任意の2力をまず合成します。
 次に、その合力と他の1つの力を合成します。
 さらに今求めた合力と別の力とを合成します。
 与えられた全ての力について、この方法を繰り返すことにより合力を求めることができます。
 この場合、力の三角形の法則を組み合わせ、連続してできた多角形ABCDEを力の多角形、
 または、示力図(しりょくず)といいます。

 力の始点Aと終点Eを結んだ線分の大きさが合力Rの大きさであり、
 線分の向きがその方向を示します。
 力の合成には力を平行移動しているため、異なった運動をしてしまいます。
 したがって、力の作用位置は求められません。

 力の作用位置を求める場合は、後に説明する連力図(れんりょくず)を利用する必要があります。

(B)解析法

 力の作用点Oを原点とする水平軸OXと、これに直角な鉛直軸OYの2軸を考えます。
 全ての力PiのX,Y方向の各分力の代数和をそれぞれ、ΣH、ΣVとするとき、
 合力の大きさR及び合力がX軸となす角φが次式により求められます。

1.1.4 一点に作用する力のつり合い

 1点に多くの力が作用し、その点が移動しない静止の状態にあるとき、
 それらの力はつり合い状態にあるという。
 そのための必要十分条件は次のとおりです。
(a)必要十分条件(図解的)
  力の多角形が閉じます。
  つまり、力の多角形を構成する全ての力の向き(矢印)が循環し、
  かつ、力の始点と終点が一致することです。
(b)必要十分条件(解析的)
  R=√((ΣH)2+(ΣV)2 )において、R=0 になることが条件となります。
  すなわち、次の2式が同時に成立することです。
   ΣH=0(水平分力の和が0)
   ΣV=0(鉛直分力の和が0)
「作用・反作用」と「力のつり合い」について
  【作用・反作用】
   ・「物」が「台」を押すが、同時に同じ大きさの力で「台」も「物」を押し返す。
   ・「押す」、「押し返す」の関係は、「物」と「台」の2物体間で起こる現象です。
   ・力は単独では存在せず、常にどのような力も作用と反作用がペアになっています。

  【力のつり合い】
   ・重力により「物」は引かれ、「台」が「物」を押しています。
   ・どちらも「物」に働いています。

 つまり、作用・反作用は、2つの物体の間に働く力です。力のつり合いは、1つの物体に働く力です。

1.1.5 力のモーメント

 力Pがある1つの点Aを外れて作用したとき、
 その点に関して回転を起こそうとする力を生じます。
 この回転力をモーメントといい、点Aから力Pの作用線までの垂直距離をaとすると、
 力Pの点Aに関するモーメントMは、
   M=P・a
 によって表されます。モーメントは右回り(時計方向)を正と約束します。

1.1.6 モーメント荷重

 モーメント荷重は、理論上、点に作用する回転力ですが、
 これを発生させるには、微小距離間に作用する1対の逆向きの力、偶力を必要とします。

1.1.7 偶力

 2つの平行力において、大きさが等しく向きが反対な場合、その1組の力を偶力という。
 図のように力PとPの間の垂直距離をlとすれば、
 P・lを偶力または偶力モーメントと呼び、
 右回り(時計方向)のものを正(+)、
 左回り(反時計回り)のものを負(−)と約束しています。

 偶力は、モーメントを求める点の位置には関係がありません。
 偶力によるモーメントと単なるモーメントの相違点は、
 力の合力が0となるか、ならないか、作用点が指定されていないか、いるかの2つです。

 今、1組の偶力の任意点Oに関するモーメントを考えます。
 点Oよりl1の距離にある力Pは、点Oに関して右向き(+)のモーメントP・l1を与え、
 点Oよりl2の距離にある力Pは左向き(−)のモーメントP・l2を与えます。
 これらの和が点Oに対するモーメントですから、
  M=P・l1−P・l2=P(l1−l2)=P・l
 となり、l1やl2に関係なく常にP・lとなります。
 したがって、偶力モーメントは、求める点の位置に関係ないということがいえます。

1.1.8 一点に作用しない多くの力の合成

(A)図解法(力の多角形)
A図のように力F1, F2, F3の合力R及び作用位置を求めます。

  1. [B図]まず、力の多角形1,2,3,4を作り、合力Rの大きさと向きを決定します。
  2. [B図]次に、任意点O(極)をとり、力の多角形の各頂点とOとを結ぶ極射線T、U、V、W(点線部分)を引きます。
  3. [A図]F1の作用線上に任意の点mをとり、極射線Tに平行な辺lmを引きます。
    続いて点mを通り極射線Uに平行な線を引き、F2との交点をnとします。

     以下同様にして、極射線V、Wを力の作用図に平行移動し、それぞれ辺np及び辺pqを引けば、
     辺lmと辺pqの交点sが合力>Rの通る点となります。
     このとき、描かれた辺lmnpqを連力図(れんりょくず)と呼びます。
  4. 一点に作用しない多くの力の合成において、力の多角形は、合力の大きさ及びその方向は求めることはできますが、
     力の作用線を求めることはできません。
     そこで、任意点O(極)をとり、力の多角形の各頂点とO(極)を結びます。
     これは、各力(F1,F2,F3)を分解し、分力を利用することによって、合力の作用線を求めるものです。
     つまり(B)図において、F1は(1o)+(o2)、F2は(2o)+(o3)、F3は(3o)+(o4)に分解され、
     分力の作用方向が連力図(lmnpq)になります。
     B図のUは(o2)と(2o)、Vは(o3)と(3o)により各々の力は相殺され、
     結局、端辺T(1o)、W(o4)の力が残り、(A図)のlm,pq作用線の交点が合力Rの作用線をとおることになります。

【例題1−1】

 一点に作用しない3つの力F1、F2、F3の合力Rの作用線が、
 連力図の最初の辺lmと最終の辺pqの交点Sをとおることを証明せよ。

【証明1-1】
力の多角形において、F1、F2 、F3は、極斜線T、U、V、Wで表せる力の成分に分解されます。
  1. 1は分力T(1O)、U(O2)に置き換えられます。
  2. 2は分力U(2O)、V(O3)に置き換えられます。
  3. 3は分力V(3O)、W(O4)に置き換えられます。
 すなわち、F1、F2 、F3は、lmnpqに沿う力に置き換えられます。
 しかし、図中の2力U(O2)とU(2O)、V(O3)とV(3O)は、打ち消し合って0となるので、
 結局、力T(1O)とW(O4)だけが残り、それらの合力Rは辺lmと辺pqの交点sをとおります。
 平行でない2力の合力は、2力の作用線の交点をとおります。

(B)解析法
 任意点Oを原点とする直交軸OXとOYを設け、全ての力のX,Y方向の分力の代数和をそれぞれΣH、ΣVとすれば、
 合力の大きさR及びX軸となす角度φが次式により求められます。

[バリニオンの定理]

 個々の力に任意点からの距離を乗じたモーメントの和は、合力の任意点からの距離を乗じたモーメントに等しい。

 ※ 任意点に関するモーメントの和をΣMとすれば、任意点からの合力Rの作用線の垂直距離dは、 d=ΣM/R

(2力の作用線の交点を合力の作用線がとおることを確認しよう)
 バリニオンの定理を利用して、図のような2力F1、F2を合成した合力Rは、
 各々の力の作用線上の交点をとおることを確認しよう。

 今、力F1の作用線上に任意点Pがあります。
 この場合、力F1によるモーメントは0となります。
 また、力F2の作用線上の任意点Qについても力F2によるモーメントは0となります。

 そこで、力F1、F2の作用線上の交点Oを選定すると、力F1、F2共にモーメントは0となります。
 また、力F1とF2の合力Rは、力の平行四辺形の法則により、
 その2力を相隣り合う2辺とする平行四辺形の対角線です。
 合力Rの作用線は力F1、F2の作用線の交点を通過しており、その点によるモーメントは0となります。

 したがって、2力を合成した合力は各々の力の作用線上の交点をとおることになります。

【例題1−2】

 点Aで交わる2つの平面力PとQの合力をRとするとき、
 平面内に選んだ任意の点Oに関するPとQのモーメントの和は、
 合力Rのモーメントに等しいこと(バリニオンの定理)を証明せよ。


【証明1−2】
 点OAを結び、OAに直交する直線OXを引きます。
 各頂点B,C,DからOXに下した垂線の足をそれぞれB´,C´,D´とすると、
 力Pのモーメント=OA×OB´´=OA×OB´
 力Qのモーメント=OA×OC´´=OA×OC´

 上式を辺々加えると、
 力Pのモーメント+力Qのモーメント
 =OA×(OB´+OC´)

 四角形ABDCは平行四辺形だから、
 OB´=C´D´より、
    =OA×(OB´+B´D´)
    =OA×OD´
    =力Rのモーメント

1.1.9 一点に作用しない力のつり合い

(a)必要十分条件(図解的)
  力の多角形が閉じること、かつ、連力図が閉じることが条件となります。

(b)必要十分条件(解析的)
  R=√((ΣH)2+(ΣV)2)において、R=0になり、
 かつ、d=ΣM/Rのdは無限大とならない。(力が偶力を作らない)
  すなわち、次の3式が同時に成立することです。
   R=0 になるためには、

d=ΣM/Rが無限大にならないためには、
 ΣM=0となる式は、偶力が0となる条件を示すもので、
 この3式をつり合いの3条件式と呼んでいます。

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